■当時
■現在
主文
1 被告は,原告に対し,92万5821円及びうち89万3907円に対する平成15年6月3日から完済まで年5分の割合による金員を支払え。2 訴訟費用は,被告の負担とする。
3 本判決は,1項に限り仮に執行することができる。
事実
第1 当事者の求めた裁判
1 請求の趣旨主文と同旨。
2 請求の趣旨に対する答弁
(1) 原告の請求を棄却する。
(2) 訴訟費用は,原告の負担とする。
第2 当事者の主張
【請求原因】1 当事者
被告は,貸金業者として登録を受けている貸金業者であり,原告は,被告の顧客であった。
2 取引の内容
被告は,原告に対し,別紙1の「借入金額」欄記載の金額を,対応する「年月日」欄記載の日に貸し付け(以下「本件貸付」という。),原告は,被告に対し,同「弁済額」欄記載の金額を,対応する「年月日」欄記載の日に弁済した(以下「本件弁済」といい,本件貸付と本件弁済を併せて「本件取引」という。)。
3 過払い金の発生
本件貸付に適用される利息制限法所定の上限の利率は年18パーセントであり,原告と被告との間で合意された利息合意のうちこれを超える部分は無効であり,これを超えて支払った利息(以下「超過利息」という。)を元本に充当することによって元本が消滅した後の弁済は,過払い金(不当利得)となる。
4 法定利息の発生
被告は,超過利息を利息として受領し得ないことを知りながら本件弁済を受領していたから,上記過払い金が法律上の原因を欠いていることについて悪意であった。
したがって,被告は,民法704条の「悪意の受益者」として,過払い金を返還するだけでなく,過払い金発生時以降生ずべき同条所定の年5分の割合による利息(以下「法定利息」という。)を支払う義務を負う。
5 充当計算の結果
上記のとおり発生した過払い金及び法定利息は,新たな貸付との間に当然に充当関係が生じ,新たな貸付は,民法491条に従い,まず法定利息に充当され,その残額が過払い金に充当されることになる。
そして,本件取引について,充当計算を行うと,別紙1のとおり,最終弁済日である平成15年6月2日の時点で89万3907円の過払い金が生じている。
また,同時点で,未収利息として3万1914円が発生している。
6 まとめ
よって,原告は,被告に対し,不当利得の返還として,過払い金89万3907円及び未収利息である3万1914円並びに89万3907円に対する平成15年6月3日から完済まで民法所定の年5分の割合による法定利息の支払を求める。
【請求原因に対する認否】
1 請求原因1ないし4の事実は認める。
2 同5の事実は否認し,充当計算の結果については争う。
【抗弁】
1 被告は,平成12年5月19日,平成14年12月13日法律第154号による改正前の会社更生法(以下「旧法」という。)に基づき,会社更生手続開始申立てをした(以下,上記申立てにかかる会社更生手続を「本件更生手続」という。)。
東京地方裁判所は,平成12年6月30日,被告につき更生手続開始決定をし(以下,本判決において「基準日」という場合,同決定がされた平成12年6月30日をいうものとする。),平成13年1月31日,更生計画認可決定をし,同年3月29日,更生手続終結決定をした。
2 被告は,本件更生手続において,債権者一覧表(債権者名簿)に原告を更生債権者として記載しておらず,また,原告は,本件更生手続において,旧法125条所定の債権届出をしなかった。
3 したがって,旧法241条本文により,基準日に既に存在した過払い金(以下「既存過払い金」という。)に関する債権は失権した。
原告が被告に対して請求しうる不当利得債権は,基準日以後の原因に基づいて発生したものに限られるところ,その不当利得の額は別紙2のとおり,41万3359円に過ぎない。
【抗弁に対する原告の認否及び反論】
1 抗弁1及び2の事実は認め,同3の主張は争う。
2 本件請求債権が更生債権でないこと
(1) 原告は,昭和58年10月8日,被告との間でカード会員契約を締結し,被告からAカードの貸与を受け,それ以降,カード会員契約に基づき,金銭消費貸借取引をしてきたのであるから,原告と被告との間には,基準日の前後を通じて同一の基本契約が継続しているところ,当該基本契約は,超過利息の弁済により過払い金が発生した場合,これをその後に発生する新たな借入金債務に充当する旨の合意を含んでいるといえる(以下「充当に関する合意」という。)。
そして,被告は,基準日以後も,原告を含む多数の顧客との間のカード会員契約を解約することなく,会社更生手続を成功裏に納める戦略的目的からあえてこれを継続・維持したのであるから,充当に関する合意も本件更生手続により何らの変容を受けるものではない。
原告と被告との間における継続的な金銭取引により発生した過払部分は,契約に含まれる充当に関する合意に従って,その後の貸付に順次充当し,その分は消滅するのであり,会社更生前に発生した過払部分は,その後に行われた貸付に順次充当がされて消滅する。
(2) 限度額の範囲内で貸し借り2 を継続的に行う基本契約の下で過払い金返還請求権が確定的に発生するのは最終取引時点であり,それまでは利息制限法を超過する支払部分は残債権にその都度法定充当され,それでも残存する過払い金については新たな貸付がされた時点で新たな借入金債務に充当される。
(3) つまり,充当に関する合意が存在する限り,過払い金は不当利得債権として顕在化しないのであり,本件請求債権は,取引終了時(今後基本契約に基づく新たな貸付が発生しないことが確定した時)である平成15年6月2日に確定的に発生した債権であるから,そもそも更生債権ではなく,これが旧法241条によって失権することはない。
3 既存過払い金に関する債権が旧法208条2号または8号の共益債権であること
(1) 旧法208条各号所定の共益債権は,会社更生手続の遂行及び会社の事業継続のために支出が必要な費用や支払が債権者の共同の利益になるような費用に関するものである。
ある費用が事業の経営等に関するものであれば旧法208条2号の共益債権に該当し,会社のため支払がやむを得ない費用であれば同条8号の共益債権となる。
(2) 会社更生の目的を達成するために,円滑な資金調達は最も重要な課題である。
貸金業者における会社更生にあっては,既に過払い金が発生している顧客の分をも含めた高利貸金営業全体を引き当てとして,更生債権の弁済資金を拠出してくれるスポンサー探しが不可欠の前提となっている。
そのため,真実は過払い金が発生している顧客であっても,更生手続上は,被告が「貸金債権」を有する顧客として取り扱わなければならず,こうすることによって,債権者の配当を極大化するとともに被告の事業継続が可能となったのである。このような取扱いを行わなければならない以上,原告の過払い金債権を含む多数の顧客の過払い金債権について,更生手続内で更生債権として統一的かつ集団的に取り扱うことは全く予定されていなかった。
(3) したがって,原告の既存過3 払金の返還に要する費用は,更生手続上避けることのできない,やむを得ない費用というべきであり,既存過払い金に関する債権は,旧法208条2号又は8号に該当する共益債権である。
(4) 実際にも,他の貸金業者(B,C,D等)の会社更生手続にあっては,高利貸金営業に伴って発生した過払い金債権は,例外なく共益債権と扱われているところである。
4 既存過払い金に関する債権が旧法208条7号の共益債権であること
原告は,被告との間で会社更生手続開始前からカード会員契約を締結している。
このカード会員契約は,顧客に信用事故等が生じない限りは,限度額の範囲内において,被告が顧客に対し立替払あるいは金銭消費貸借に応じるべき義務を負わせる契約である。
そして,被告は基準日以後もこのカード会員契約を解除・解約せず,基準日以前と同様に,カード会員契約に基づいて原告ら顧客の求めに応じて貸付を継続した。
被告は,カード基本契約に基づく義務の履行を選択したのであり,原告の既存過払い金に関する債権は旧法208条7号により共益債権となる。
仮にそうでないとしても,過払い金返還を故意に怠りながら更生債権として失権を主張し,他方,貸付債権については高利を徴求し続けるという不公平を是正するため,既存過払い金に関する債権は,同号を類推適用して共益債権になると解すべきである。
【原告の反論に対する被告の再反論】
1 既存過払い金に関する債権が更生債権であることについて
(1) 既存過払い金に関する債権が更生債権(旧法102条)に該当することは明らかである。
(2) 原告は充当に関する合意があった等と主張するが,過払い金発生後新たな貸付がされるまでの間に会社更生手続開始決定がされたという特殊事情がある場合にまで,過払い金をもって後に生じた借入金債務に充当することが当事者間で合意されていたとは到底解されない。
既存過払い金に関する債権は,旧法241条本文に基づいて失権するから,既存過払い金が基準日以後に発生した借入金債務の弁済に充当されることはありえない。
(3) 旧法には「充当に関する合3 意」の効力について定めた明文規定は存在しない。
そこで「充当に関する合意」と同様の経済的機能を有する相殺予約ないし相殺合意が更生開始決定によっていかなる影響を受けるのかについて,相殺に関する旧法の規定を踏まえ検討するに,旧法では開始決定後の貸付金を受働債権とする相殺は許されていないこと等からすると(旧法163条1号),更生開始決定後の借入金債務を受働債権とする相殺合意ないし予約は無効になると解さざるを得ない。
そうすると,相殺予約ないし相殺合意を同一の経済的機能を有する「充当に関する合意」が仮に認められたとしても,旧法163条1号の類推適用により,過払い金をもって開始決定後の借入金に充当することは許されない。
(4) 原告は,限度額の範囲内で貸し借りを継続的に行う基本契約の下で過払い金返還債権が確定的に発生するのは最終取引時点である旨主張する。
しかし,過払い金返還債権は,過払い金が発生した都度,具体的な債権として発生するのであって,原告が,被告を悪意の受益者として法定利息の発生を主張することや,新たな貸付への充当を認めること自体,過払い金が発生した都度,その返還を求める債権が具体的な債権として発生することを認めていることに他ならない。
また,取引が終了したか否かは事後的に判明することであり,いったん確定的に発生した過払い金返還債権が再度不確定な債権に変貌してしまうことになりかねない原告の主張は論理的とは言い難い。
2 本件債権が共益債権に該当しないこと
(1) 旧法208条2号又は8号該当性について
旧法208条6号は「不当利得により更生手続開始後会社に対して生じた請求権」が共益債権であると明示するが,この規定は,更生手続開始前に会社に対して生じた不当利得返還債権を共益債権としない趣旨であると解されるのであるから,原告の主張は同法の解釈を誤っている。
更生手続開始前に発生していた不当利得返還債権が旧法208条2号及び8号に該当しないことは明らかである。
(2) 旧2 法208条7号ないしその類推適用について
カード会員契約が全体としてどのような性格の契約であるかはともかく,本件訴訟で問題となっている取引は金銭消費貸借取引,すなわち片務契約たる金銭消費貸借契約に基づく取引であって,これが双務契約であることを前提とする原告の主張には理由がない。
【再抗弁(信義則違反)】
仮に,既存過払い金に関する債権が更生債権として失権しているとしても,被告は,既存過払い金が発生していることを認識し,あるいは容易に認識し得たにもかかわらず,原告に対し債権届出を促すことなく,逆に,客観的には存在しない貸金債権をあたかも存在するがごとく装い,債権者として振る舞って,原告の債権届出の機会を積極的に阻害してきた。
このような被告が失権の主張をすることは信義則に反する。
【再抗弁に対する被告の認否及び反論】
1 そもそも,被告には,原告に対し,更生債権届出を促す義務はなく,原告の債権届出の機会を積極的に阻害してきたとの事実もない。
本件更生手続は旧法に基づいて公告され,また,全国紙等により大々的に報道された。
したがって,原告が債権届出をすることは十分に可能であった。
2 原告の主張を前提とすれば,取引履歴をきちんと把握し,引き直し計算を行った結果過払の事実を知って自ら債権届出の労を尽くした顧客が更生計画に従って債権の一部をカットされる一方で,上記のような労を尽くすことなく債権届出を行わなかった顧客についてはその債権が何らのカットもされないことになる。
これこそ,著しい不公平ないし不正義である。
理由
第1 認定事実
請求原因1ないし4の事実,抗弁1及び2の事実は当事者間に争いがなく,加えて,甲第2ないし第9号証,乙第1,第2,第7ないし第9号証及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。1 被告は,平成12年5月19日,会社更生手続開始申立てをし,東京地方裁判所は,同日,保全処分決定を発令した。
その後,平成12年6月30日に開始決定がされた本件更生手続は,平成13年1月31日に更生計画が認可され,同年3月には認可された計画通りの債権の一括弁済がされ,同年3月29日,申立てからわずか10か月余りの異例の早さで終結決定がされた。
更生担保権の確定債権の総額は3010億円余り(73件),一般更生債権の総額は3178億円余り(債権者数116名)であり,更正計画においては,前者の債権については全額を弁済し,後者の債権については47.72パーセントの額に権利変更の上,その金額を支払うものとされたが,一般更生債権の最低弁済率は更正計画の想定を上回って,54.298パーセントとなり,結局,総額4756億円が一括弁済されたのである。
2 約4700億円もの弁済資金を提供したのは,被告と同様に高利による消費者金融を行っていた貸金業者E株式会社(以下「E」という。)であった。
そのため,本件更生手続において,Eは被告の株式を100パーセント支配することになった。
すなわち,本件更生手続により,被告の全株式が無償償却されて100パーセント減資がされ,Eが700億円の新株の全部を引き受け,これを出資として被告に払い込んだのである。
3 Eは,上記弁済資金を調達するため,被告の保有資産を3000億円余りと見積り,これを引き当てとして金融機関から2730億円の融資を受けた(甲4)。
保有資産の大半は,多数の顧客に対して有する金銭債権である(甲5の47頁)。
もともと,本件更生手続においては,被告の営業全体をスポンサー企業に譲渡して弁済資金を調達することが予定されており,したがって,会社更生手続申立時に全国632万人との間で締結していたカード会員契約を維持することを前提として申立てがされた。すなわち,被告も,被告の営業を引き継ぐスポンサー企業も,カード会員契約の維持・存続,この契約に基づく取引の継続を前提として行動していた。
そのため,申立ての日に東京地方裁判所が発した保全処分決定においては,クレジットカードの使用によって負担する債務の弁済は裁判所の許可を要しないとされたし(甲5),被告は,平成12年6月2日,全国各紙に「Aカードはこれまで通り使えます」との社告を掲載した。
さらに,東京地方裁判所は,平成12年6月30日にした会社更生手続開始決定において,融資の業務を行うために必要な「日常取引」については裁判所の許可を要しないとした(甲6)。
被告のキャッシング取引は,ATM機の利用によるところが大きいが,会社更生手続開始の申立ての後もその利用が可能となる措置がとられた(甲6)。
結局のところ,本件更生手続開始決定の前後を通じ,被告発行のAカードの利用形態に何らの変更も加えられず,原告を含めた大多数の顧客は,カード会員契約に基づく取引を継続したのである。
4 本件更生手続において,過払い金返還債権を一般更生債権として債権届出をしたのは2名であり(甲5の63頁,乙8,9),いずれの債権者も基準日より前に取引が終了していた。
その余の一般更生債権者114名はいずれも法人であり,その大部分が金融機関であった。
すなわち,被告との間で金銭消費貸借取引を継続している者で過払い金返還債権を一般更生債権として届け出た者はいなかった。
5 原告は,昭和58年10月8日,被告との間で,カード会員契約を締結した(乙2。以下「本件基本契約」という。)。
被告のカード会員契約においては,会員は,被告からキャッシング利用限度額の範囲内で,1万円単位で金員を借り入れることができ,借入金の返済は,被告があらかじめ定めた借受金金利を会員が負担するものとし,弁済はリボルビング方式の元利定額方式で,会員があらかじめ被告に届け出た額を毎月支払うものとされていた(乙2,9条各項)。
また,会員は,所定の脱会届を提出し,被告に対する未払金を完済することにより脱会することができる(乙2,16条)。
6 原告は,被告との間で,本件基本契約に基づき,別紙1記載のとおり本件取引を行ったが,途中で脱会することはなく,基準日の前後を通じて本件基本契約に基づく取引を継続していた。また,原告は,平成2年1月,平成4年1月及び平成6年から平成14年まで毎年1月に年会費として,被告に対し140円を支払った。
なお,本件取引継続中の基準日(平成12年6月30日)で見るならば,43万0895円の過払(既存過払い金)が生じていたが,原告は,これにつき債権届出していない。
7 本件取引における最終取引は,平成15年6月2日の弁済であり,この時点での過払は89万3907円であった。
そして,原告は,平成19年4月3日,被告に対し,過払い金の返還を求めて,本件訴訟を提起した。
第2 当裁判所の判断
1 本件取引は,同一の貸主と借主との間で基本契約に基づき継続的に貸付と弁済が繰り返される金銭消費貸借取引であるところ,前記第1の5の事実に照らせば,本件基本契約に基づく債務の弁済は,各貸付ごとに個別的な対応関係をもっておこなわれることが予定されているものではなく,本件基本契約に基づく借入金の全体に対して行われるものと解される。すなわち,このような継続的な金銭消費貸借取引における貸金債権の個数は1個であり,貸付と弁済が繰り返されることによって貸金債権の額が変動することになると解される。また,このような継続的取引において,超過利息の弁済を繰り返すことによって過払い金が生じた場合,この過払い金については,その後に発生する新たな借入金に充当する旨の合意を含んでいるもとの解される(最高裁平成19年6月7日判決参照)。
そうすると,取引が継続される限り,過払い金の額も増えたり減ったりすることは当然であるところ,この過払い金返還債権の個数も,貸金債権と同様に1個であり,貸付と弁済が繰り返されることにより,過払い金返還債権の額も変動し,これが確定するのは,基本契約が終了した時点(新たな借入も弁済もしないことが確定した時点)であるということになる。
2 さて,被告は,基準日の前後を通じて,Aカードの利用を制限しておらず,会員のカード利用形態に何らの変更もされていないのであるから,本件更生手続開始決定により,カード会員契約に含まれる,過払い金の充当に関する合意が何らかの影響を受けたと解することはできない。
なお,被告は,旧法163条1号(更生債権者が更生手続開始後会社に対して債務を負担したときは,その債務を受働債権とする相殺を禁ずる規定)を根拠として,充当に関する合意も無効である旨主張するが,充当に関する合意は,当然にカード会員契約の一内容をなすものであり,カード会員契約が存続しているのに充当に関する合意のみが同号によって無効になると解することは妥当でない。
3 充当に関する合意が本件更生手続によって影響されない以上,基準日において存在した既存過払い金は,取引が継続する限り,新たな加算(弁済時)と減算(貸付時)が繰り返されることになり,取引の都度,日々,新たな過払い金となる。
結局,継続的な金銭消費貸借取引において生じる過払い金返還債権を,具体的な権利として行使しようと思えば,取引を終了させて額を確定しなければならないのであるから,このような過払い金返還債権は,取引終了時に,具体的な1個の金銭債権として認識可能な状態となると解される(すなわち具体的な金銭債権として顕在化する−発生する−と解される)のであって,取引終了までは,いわば潜在的な権利にすぎないというべきである。
本件取引においても,基準日に存した既存過払い金についての返還債権は,潜在的な権利としては存在したと言い得るが,被告自身が取引の終了を望まずに取引継続の措置をとり,原告も同様であったことにより,具体的な権利行使が可能な金銭債権として顕在化することがなかったものと解される。
4 以上に述べたところによれば,本件請求に係る過払い金返還債権(89万3907円)が具体的な権利行使が可能な金銭債権として顕在化した(発生した)のは,最終取引(平成15年6月2日の弁済)以後のことである。
そこで,次に,そのような債権の一部につき旧法241条を適用することが可能かどうかについて検討する。
なお,旧法241条は,届出がされない更生債権が認可計画確定後も存続することを前提として,更生会社が弁済義務を免れると規定するが,この規定は,当該債権が,認可計画確定後,催告や履行強制ができず,任意の履行に期待できるだけの自然債権となる旨を規定したものである。
5 さて,ある時点で計算される過払額について,10年以上前の弁済によって生じた部分とそうでない部分とを計算によって区分することは(しばしば極めて煩雑であるが)不可能な作業ではない。しかし,そういう計算をして1個の過払い金返還債権と人為的に区分し,前者は消滅時効によって消滅しており,後者だけが現存しているなどと論ずることは妥当ではない。
同様に,本件取引において,基準日以後のある時点で計算される過払額について,既存過払い金に由来する部分と基準日以後に生じた部分とを計算によって区分することは(煩雑ではあるが)不可能な作業ではない。
しかし,そういう計算をして1個の過払い金返還債権を人為的に区分し,前者は旧法241条に基づいて「自然債権」となり,それ以外の部分は通常の債権の性質を維持していると考えることは,余りにも技巧的な解釈であって,やはり妥当ではない。
結局,継続的な金銭消費貸借取引において発生する過払い金は,取引終了時に発生した1個の債権として認識すべきであって,そうすると,およそ旧法241条の適用によって自然債権化することはない。
6 以上の判断は,本件更生手続の社会経済的な実質に照らしても妥当なものと考えられ,基準日に存した過払い金について旧法241条の適用をいう被告の主張は適切ではないと考える。
その理由は,次のとおりである。
被告は,更生計画による権利変更によって金融機関に対する金銭債権(一般更生債権)の負担を軽減することによって,多数の顧客との間で行っていたクレジット及びキャッシングの営業の継続を図ったのであり,そのキャッシング営業とは,利息制限法に違反する高利貸付営業なのである。
そして,営業の継続は,同じく高利貸付営業を行うE1社の全面的な資金援助によって実現された。Eに対する営業譲渡によって営業の継続がされたに等しいのである。
超過利息を収受する営業を温存するために会社更生手続が利用され,会社更生手続開始申立ての後であるにもかかわらず,裁判所の許可なしでの新たな貸付とこれに伴う超過利息の収受が容認され,更生手続開始決定の前後を通じて超過利息の収受が行われ続けたのであり,その営業継続は,高利貸付営業の温存を願う被告の意向に沿ったものであり,被告は,基準日の前後を通じて超過利息の収受という多大な経済的利益に浴したのである。
その経済的利益のうち法(利息制限法と貸金業法)が収受を許容しない部分は返還されなければならない。
ところが,被告の主張に従う限り,結果的に,旧法241条を根拠として,基準日に存在した既払額について法が許容しない超過利息の収受を容認することになり,一般更生債権の負担の軽減以外に,このような経済的利益を被告に享受させることは,本件更生手続の経緯に照らして不相当であるといわざるをえない。
高利貸付営業の営業譲渡と実質において異ならない本件更生手続にあってはなおさらそうであるといわなければならない。
7 本件取引に旧法241条の適用がないとすれば,請求原因1ないし4の事実について争いのない本件取引にあっては,最終取引(平成15年6月2日)の時点における過払い金の額及びその時点で新たな貸付と充当関係が生じないで残存していた法定利息の額が原告主張のとおりであることは,計算上明らかである。
第3 結論
よって,本件請求は理由があるからこれを認容することとし,訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条を,仮執行宣言につき同法259条を適用して,主文のとおり判決する。無料で自己破産を相談するなら|自己破産ドットコム
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